「東日本大震災に関する寄附により損金算入限度額が・・・」という迷惑メールを真面目に検証する

毎日続々と送りつけられる迷惑メールにはうんざりさせられますが、バカになって中身を見てみるとなかなかおもしろいものもあったりします。

なぜか数千万円もの金を私の銀行口座に送ろうとする女、「なんで返事くれないんですか?私が死んでも良いんですか?」という謎の脅迫、嵐の松潤からの悩み相談・・・などなど、最近はバリエーションに富む内容になっています。スパマーも必死です。

さて、最近送られてきたあるメールも「何故か大金を送金しようとする女」系メールだったのですが、本文に「東日本大震災に関する寄附により損金算入限度額が・・・」という内容が含まれておりました。会計・税務に関する仕事をしている私にとっては非常に興味深い内容となっていましたので、これを紹介するとともに、内容を真面目に検証してみたいと思います。

スポンサーリンク

問題の迷惑メール本文と論点整理

完全非課税、無償で全額7600万を受け取ってもらえませんか?
岩谷里美と申します。ご紹介を受けてご連絡させて頂きました。
今回の震災を受けて我が社から寄付を行ったのですが、損金算入限度額を超えてしまったため7600万が余ってしまいました。

利益計上するにも課税対象で我が社の損失となってしまうので、貴方様に全額無償でお受け取り頂きたいのです。
もちろん何に使って頂いても構いませんし、返却を求めることもありませんので安心してください。

貴方様の受け取りに利用される口座情報として、「金融機関名、支店名、口座番号、名義人名」この4点をお教え頂けますでしょうか?

口座振込での受け渡しですので、最短5分とかかりません。

直メですので、折り返しそのままお返事ください。

iPhoneから送信

※迷惑メールフィルター回避目的なのかは分かりませんが、原文には文中の至る所に「.」が挿入されており読みづらかったので、これを除いています。

このメール本文中、気になる点は以下の3点。

  1. 7,600万円もらえるのに非課税
  2. 震災に関連する寄附を行った結果、損金算入限度額を超えてしまい7,600万円余った。
  3. 余った7,600万円を利益計上すると我が社の損失になる

ただ単に金を渡す渡す、と言うだけでは食いつきが悪かったのでしょうか?説得力をアップさせようと、会計・税務ネタで頑張ったんでしょうが、もう少し勉強したほうが良いのではないでしょうか。

各論点について詳しく検討していきましょう。

非課税で7,600万円もらえるか?

何かの対価というわけでもなく、7,600万円をもらって非課税ということがあり得るのでしょうか。

本文には「我が社」「損金算入限度額」という文言が出てくることから、この7,600万円はどうやら法人からもらえるようです(「損金」は法人税法特有の言葉です)。

なぜ法人であるかどうかを考えるかといいますと、「法人から個人への贈与」と「個人から個人への贈与」とでは税務上の取扱いが異なるからです。「法人から個人への贈与」では受取人に所得税(一時所得)が課され、「個人から個人への贈与」では受取人に贈与税が課されます。

つまり、この事例ではこの所得税について検討すべき、ということになります。例えば、他の所得ゼロ、配偶者・子どもなしの人が7,600万円をもらったと仮定すると、税額はこのようになります。

(7,600万円 - 50万円) × 50% = 3,775万円(総所得金額)
3,775万円 - 38万円 = 3,737万円(課税所得)
3,737万円 × 40% - 279.6万円 = 1,215.2万円(所得税額)

一時所得の金額は、次の算式のとおりです。
総収入金額-収入を得るために支出した金額(注)-特別控除額(最高50万円)=一時所得の金額
・・・
一時所得は、その所得金額の1/2に相当する金額を給与所得などの他の所得の金額と合計して総所得金額を求めた後、納める税額を計算します。

No.1490 一時所得|所得税|国税庁

このケースでは1,200万円超の税金が発生することになります。わざわざ計算するまでもなくわかることですが、7,600万円の贈与を受けて税額0というのは無理がありそうです。

百歩譲って、受け取った7,600万円を申告せずに税金を納めないことを非課税と呼ぶとしても、銀行口座振り込みでは税務調査時にバレてしまいますよ・・・。見つかりにくい現金手渡しをおすすめしますが、岩谷様いかがでしょうか。

(ちなみに、例えば扶養親族が99人居ると所得控除が課税所得を上回るため所得税額は0になります。もしかすると、岩谷氏はこのケースを想定していた?)

震災関連の寄附で損金算入限度額を超えるとお金が余る?

この点に関しては、まず震災関係の寄附に関する法人税法上の取扱いを見てみましょう。

法人が義援金等を支出した場合には、その義援金等が「国又は地方公共団体に対する寄附金」(国等に対する寄附金)、「指定寄附金」に該当するものであれば、支出額の全額が損金の額に算入されます。

東日本大震災に係る義援金等に関する税務上(所得税、法人税)の取扱いについて|お知らせ|国税庁

実は通常の寄附金も震災関係の寄附金も税務上の取扱いは同じで、国・地方自治体や財務大臣が指定する特定の寄附金(指定寄附金)は全額損金に算入することができます(「損金に算入することができる」とは「経費になる」とという意味で考えていただいて結構です)。

ところで、そもそも寄附金というのは通常ほとんど損金に算入することができません。一般の寄附金であれば、以下の算式で計算した金額までしか損金に算入することができないようになっています。

寄附金の損金算入限度額 = (資本金 × 0.25% + 寄附金支出前の所得金額 × 2.5%) × 25%

例えば、資本金1,000万円、寄附金支出前の所得金額が100万円の法人の場合、損金算入限度額は以下の通りです。

(1,000万円 × 0.25% + 100万円 × 2.5%) × 25% = 1.25万円

この例では、どれだけの寄附を行ったとしても、たったの1.25万円しか経費にならないということになります。国・地方自治体への寄附や指定寄附金に関しては、公益性・緊急性が高いということで政策的見地から優遇されているわけです。

さてさて、寄附金税制についてざっと確認したところで、メール本文を見てみましょう。

今回の震災を受けて我が社から寄付を行ったのですが、損金算入限度額を超えてしまったため7600万が余ってしまいました。

震災に関する寄附であることは分かりますが、国・地方自治体への寄附、指定寄附金に該当するなら全額損金算入が可能です。しかし、「損金算入限度額を超えてしまった」とのことなので、それ以外の寄附金に該当するのでしょう。この点について異論はありません。

問題は、損金算入限度額を超えたから金が余った、という点。これは、どう好意的に解釈しようとしても意味不明です。損金算入限度額を超えたということは、寄附金の全額が経費にならないということであり、そうすると当然法人税の金額は増加するわけで、金が余るどころか減ってしまいます。

千歩譲って、何らかの手違いや超常現象により、金が余ったとしましょう。しかし、余った金を見ず知らずの第三者に贈与するヤツがどこに居るんでしょうか?贈与者側のメリットが全く見えてきません。

余った7,600万円を利益計上すると我が社の損失になる?

ツッコミどころ満載の3つめの論点です。そもそも損金算入限度額を超えて金は余りませんし、「利益計上すると損失になる」という文言も意味不明。

寄附を行って金が余るケースって何があるんですかね?通常あり得ませんが、無理矢理考えるとすれば寄附金が返還されたケースでしょうか(損金算入限度額の話からは離れますが・・・)?

事例がないのでハッキリとは言えませんが、おそらく寄附がなかったものとみなして修正申告はできないでしょう。返還を受けたときに収益として計上することになると思われ、もちろんそれには法人税が課されます。

7,600万円をポンと贈与しようとする岩谷氏の会社はさぞかし大きな会社なのでしょう。大企業を想定し実効税率を35%と仮定すると、この寄附金の返還により国税・地方税合わせて約2,660万円(7,600万円×35%)の税金が発生します。

しかし、残りの65%は手元に残るわけです。岩谷氏の会社が返還される寄附金を放棄する理由がどこにあるんですかね?一万歩譲って理由があるとすれば、日本のどこかに、実効税率が100%を超えてしまうような地方税の税率がメチャクチャ高い自治体が存在(地方税法の規定によりそんな自治体は存在しないのですが・・・)し、そこに法人があるということでしょうか。

おわりに

税務や会計って誰もが分かるような話じゃありませんので、あえてそのネタを使った心意気は評価したいと思います。が、一目見て内容がメチャクチャであることが分かるので、次回からは「おっ?ホントにそうなのかな?」と一瞬でも思わせるような説得力ある文章になるよう、頑張っていただけたらと思います。

今後も楽しいスパムメールをお待ちしております。よろしくお願いします。

コメント

  1. 猫耳会長 より:

    私の所にも同じようなメールが届き絶対詐欺だよね、というより振込先教えるだけで何ができるんだろって思ってました。
    今日きたメールの単語がふと引っかかり検索をかけたら貴方がこの検証をしていたのでよんでみたらわかりやすくて面白かったです!まだ学生で公民とかそこらへんはよくわかりませんがとても勉強になりました。